2022年12月2日金曜日

アリとエサ

 昔々、あるところにアリの一家がおりました。

 夏の盛りをとうに過ぎ、冬支度のためにアリたちは少しでも多くのエサを巣の中にためようと、一生懸命働いておりました。

 そんなある日、アリの巣の側に突然大きなエサ場が現れました。そのエサ場は透き通った緑色の屋根に覆われており、中には甘くて美味しいエサがたっぷり入っています。

 アリ達は我先にとエサ場に群がりました。エサを奪い合うため喧嘩になり、怪我したアリも沢山いました。

 「巣の近くにこんなエサ場が突然現れるなんておかしい。注意すべきだ」

 などと言う、妙に悟った風のアリもいましたが、それを聞いた大半のアリは言うことを聞いて注意するどころか、返って怒り出しました。

 「冬支度にはエサが必要なんだ。このエサを集めない奴は、巣から出て行け」

 「このエサを集めない奴は馬鹿だ」

 多くのアリの罵声の前に、悟った風のアリは沈黙しましたが、決してエサ場のエサを食べようとはしませんでした。


 やがて巣の中は、エサ場のエサでいっぱいになりました。

 「よし、冬支度は出来た。次は働きアリを増やすため、子供たちにもこのエサを食べさせよう」

 アリたちは、幼虫にもエサを与え始めました。

 その頃から、不思議なことが起こり始めました。昨日まで元気だった働きアリが、突然死にだしたのです。

 最初の内、死ぬ数はごくわずかでしたので、誰も気にしませんでした。

 「そんなことは、生きていれば有るものさ。何も心配することではない」

 アリたちは口々に言いました。

 しかし、突然死ぬアリは日に日に増えて行きました。明らかに異常なことが起こっているけれど、誰もその事実を認めようとはしませんでした。

 アリたちは皆、薄々原因に気付いていましたが、気付かない振りを続けました。

 そして、エサ場のエサを食べ続けたのです。


 さて、このお話の結末がどうなるか。それは皆さんに考えてもらいましょう。

 もしかすると皆さんは、このお話の結末を知っているかもしれませんね。


 ~教訓~

君子、豹変す




2022年11月2日水曜日

21世紀の都会ネズミと田舎ネズミ

 わりと最近、ある都会の街にネズミが住んでいました。

 ある日、都会ネズミは、ふと疑問に思いました。

 「ご先祖様は、田舎暮らしの方が幸せかもしれないと言ったそうだが、本当だろうか」

 この都会ネズミは、疑問を持ったら解決しないでは居られない科学者気質でしたので、思い立ったが吉日とばかりに、田舎ネズミが住む村に出掛けて行きました。


 第一村ネズミを発見した都会ネズミは、出会い頭に聞きました。

 「幸せですか?」

 突然聞かれてびっくりした田舎ネズミは、「なんじゃ、宗教の勧誘か?そんならお断りじゃ」と、きっぱり答えました。

 「いやいや、そうじゃないんだ」

 都会ネズミが事情を話すと、思慮深い田舎ネズミは答えました。

 「わしは田舎暮らしが性に合うとるが、わし1匹に聞いたって本当のことは分からないんじゃなかろうか」

 なるほどと思った都会ネズミは、もっと沢山のネズミの意見を聞こうと思いました。


 都会ネズミが数十匹のネズミたちに意見を聞いて、ある程度の傾向がつかめたとき、さっきの思慮深い田舎ネズミに会いました。

 「どうかね。分かったかね」

 聞かれて、都会ネズミは答えました。

 「はい。どうも皆さん、幸せなようです」

 「そうかそうか、・・しかしなぁ」田舎ネズミは言葉を濁しました。

 「今現在、田舎に暮らしているネズミたちにいくら聞いたところで、都会と田舎のどっちが幸せかなんてことは、分からないんじゃないかのう。なぜなら、田舎ネズミは田舎が好きで田舎にいるわけじゃから。田舎が良いと言うのは、むしろ当然な話じゃ」

 なるほどと思った都会ネズミは、答えました。

 「では、どうすればいいのでしょう?」

 「わしも本を読んで、研究したんじゃが。一番良い調べ方はな」

 「はい。なんでしょう」

 都会ネズミは目を輝かせながら聞いています。

 「田舎にも都会にも住んだことのない、どこかの研究所で生まれたネズミを適当に選んで都会と田舎のそれぞれに住まわせ、幸せかどうか聞いてみることじゃ」

 「それだ!すばらしい!」

 都会ネズミは喜びましたが、すぐに下をむいてつぶやきました。

 「そんなこと、出来るはず無いじゃないですか」

 「そうじゃ、そんなことは出来ん。それに、もしそんなことが出来たとしても、未来永劫その結果が正しいとも言えん」

 田舎ネズミは、落胆している都会ネズミの肩に手をおいて、尋ねました。

 「ところで、お前さん自身は、都会と田舎のどちらが良いんだね?」

 「え!?私?」

 都会ネズミは驚きました。自分の気持ちなど忘れる程、研究に夢中になっていたのです。しばらく考えた末、都会ネズミは答えました。

 「私は、どちらでも構いません。今回の研究の様な、自分の好きなことが出来るなら、住むところなんてどこでも良いような気がします」

 それを聞いて、田舎ネズミはニッコリとして言いました。

 「では、それがお前さんの答えじゃろう。統計的な結果がどうあれ、個人の答えは違うものじゃ」


~教訓~

 統計には様々なバイアスが存在する。バイアスを回避するためには、ランダム化比較試験(RCT)が最も有効である。しかし、RCTでさえ時間的バイアスからは逃げられず、過去の結果が未来に当てはまるとは限らない。

 また、例えどんなに統計的に真実らしくても、個別の対象に当てはまる訳では無い。 

2022年10月26日水曜日

ガマガエルとオタマジャクシと鶴

  昔々、あるところにガマガエルとオタマジャクシたちがおりました。

 彼らが住む沼には、鶴が毎日やって来て、オタマジャクシを一匹一匹つまみ上げては、飲み込んでいました。

 そこである夜、オタマジャクシたちはガマガエルに相談に行きました。

「ガマガエルさん、鶴を追い払って下さい。でないと、私たちはみんな食べられてしまいます」

 可愛いオタマジャクシに頼まれて、ガマガエルは胸を張って答えました。

「俺様がグワーッと2回鳴けば、鶴はいなくなるだろう。俺様に任せろ」

 それを聞いて、オタマジャクシたちは喜びました。

「流石、ガマガエルさんはすごいなぁ」


 さて、次の日、太陽が昇るといつものように鶴がやって来ました。

 ガマガエルがグワーッと2回鳴いて威嚇しましたが、鶴は全く気にしない様子で、オタマジャクシをついばみ始めました。

 その夜、オタマジャクシたちは、またガマガエルのところに集まりました。

「ガマガエルさん、本当にグワーッと鳴くだけで、鶴はいなくなるんですか。」

 ガマガエルは憤慨して答えました。

「俺様がグワーッと鳴けば、必ず鶴はいなくなる。3回鳴けば、きっと大丈夫だ。俺様を疑う奴は噓つきだ。そんな奴は、そう、反グワだ」

 自信満々に断言したガマガエルを見て、オタマジャクシたちは渋々納得し、住処に帰って行きました。

 

 さて、また次の日、ガマガエルは3回どころか何回も鳴き続けましたが、鶴は楽しそうにオタマジャクシをついばみ続けました。そればかりか、ガマガエルは足を鶴につつかれて、大怪我をしてしまいました。

 その夜、ガマガエルの周りに集まったオタマジャクシは数える程でした。

 わずかに残ったオタマジャクシを前にして、ガマガエルは言いました。

「俺様が鳴き続けたおかげで、このくらいで済んだんだ」


~ 教訓 ~

 間違いを認めなければ、間違えたことにはならない・・はずがない。

 根拠の無い狂人を信じてはいけない。





2022年10月20日木曜日

カルト教祖と狂信者

  昔々、あるところに、カルト宗教の教祖と信者たちがおりました。

 ある年の夏、教祖は信者たちを集めて言いました。

「今年の12月1日に大津波が起こり、人類は滅びる」

 さあ、それを信じた信者たちは大変です。

「もうお終いだ。どうしよう」

「大変なことです。助けて、教祖様」

 口々に叫んでは、教祖に助けを求めました。

「安心しなさい。あなた達は助かります。私と一緒に暮らしなさい」

 教祖の落ち着いた優しい声を聞くと、信者たちは少し心が安らぎました。

「分かりました。全財産を売り払って、教祖様に捧げます」

 信者たちは教祖と一緒に暮らすこととなりました。


 瞬く間に月日は過ぎ、12月1日になりました。

 教祖の予言によると、今日は人類滅亡の日です。

 怯える信者たちは、いつしか教祖の周りに車座になって集まりました。

 しかし、正午を過ぎ、夕方になっても、何の異変もありません。

 ついに時計の針は夜12時を周り、何も起きないまま12月2日になりました。

 信者たちはざわざわと騒ぎ始め、最後に教祖の顔を見ました。

 落ち着かない信者たちの前で、教祖は立ち上がり、厳かな声で言い放ちました。

「私の祈りが通じ、危機は回避された」

 その言葉を聞いた信者たちは皆、晴れやかな声で叫びました。

「ありがとう、教祖様!」


 信者たちは、晴れて狂信者になったのです。


~ 教訓 ~

  自らの過ちを認められないと、認知的不協和に陥る。

  コロナで日本人が40万人死んだかな?

21世紀のアリとキリギリス

 わりと最近、あるところに、アリとキリギリスがおりました。

 アリとキリギリスは同じ会社に同期で入社し、年俸はどちらもお米300粒でした。

 アリは言いました。

「僕はバリバリ働いて給料を上げてもらい、いい暮らしをするんだ」

 キリギリスは言いました。

「僕は仕事も暮らしもそこそこでいいから、将来のために少しずつ投資するよ」

 それを聞いて、アリは言いました。

「投資だって?何を夢見ているんだい。地道に働くのが一番だよ」

 言われてキリギリスは黙っていましたが、気持ちは変わらないようでした。


 その後、アリは一生懸命に働き、給料が毎年1%ずつ増えていきました。

300

300.0×1.01=303.0

303.0×1.01≒306.0

306.0×1.01≒309.1

309.1×1.01≒312.2

        ・

        ・


 一方、キリギリスは歌ってばかりでろくに働かないため、全く給料が増えず暮らしも質素なままでした。しかし、毎月お米10粒ずつ年間120粒をインデックスファンドに投資し、年平均4%の配当も再投資して資産を増やしました。

120

120.0×1.04+120=244.8

244.8×1.04+120≒374.6

374.6×1.04+120≒509.6

509.6×1.04+120≒650.0

        ・

        ・


 40年後、アリは会社で昇進し、年俸はお米450粒ほどになっていました。

 アリの巣ローンは完済しましたが、老後が不安なため、まだ10年くらいは働く予定です。

「そうだ。キリギリスはどうしているだろう。まだ投資なんてものに夢を見ているんだろうか」

 アリはキリギリスを呼んで、聞きました。

「どうだね、キリギリス君。投資の方は上手くいっているかね」

「はい。それはもう」キリギリスが言うと、アリは「ふふん」と鼻をならして聞きました。

「でも、君もあと10年くらいは働くんだろう?」

 アリの馬鹿にしたような態度に、ニヤリと笑ってキリギリスは答えました。

「いやあ、俺は明日で仕事を辞めることにしたよ。資産はお米12000粒ほどになったし、配当だけでも年間お米450粒ほど入るんでね。毎日歌って暮らすさ」

 呆気に取られているアリの顔を尻目に、キリギリスはさっさと家に帰って行きました。


 その後、子々孫々まで、アリは一生懸命働いて暮らし、キリギリスは歌って遊んで暮らしましたとさ。


~教訓~

 資本収益率(r)>経済成長率(g)

 指数関数の恐ろしさ(複利編)

 平和が続くと、貧富の格差は広がる。

 ただし、このキリギリスと同じ事が出来る精神力の持ち主は、極わずかである。






2022年10月19日水曜日

庭師とバラ

  昔々、あるところに、庭師がおりました。

 庭師は、領主様が大切にしている沢山のバラを病気から守るため、毎日毎日一本一本調べては、病気になった黒い葉っぱを取り除いておりました。

 夏のある日、薬屋が庭師の家にやって来て言いました。

「あなたはずいぶんと働き者ですね。ですが、そんなに働いては、身が持ちませんよ。この薬を使ってはいかがでしょう。これを使えば、働かなくても1日あたり8割の病気を防げます。薬の効果は1ヶ月なので、旅行にだって行けますよ」

 これは素晴らしいと思った庭師は、その薬を買いました。

 試しに薬をバラに使ってみると、薬屋の言った通り丸1日経ってもほとんどのバラに病気の葉っぱは有りませんでした。

 やれやれこれで休めると思った庭師は、こっそりと旅行に出かけてしまいました。


 1カ月後、庭師が旅行から帰って来ると、領主様がカンカンに怒っていました。

 なんとバラは全て病気になり、わずかに残った葉っぱも真っ黒になっているではありませんか。

「庭師よ、これはどういうことだ。説明しなさい」領主様は言いました。

 庭師は薬屋に言われた通りの説明をしました。

「馬鹿な庭師よ」領主様は言いました。「1日あたり8割の病気を防いだところで、何の意味も無いのだ。試しに、0.8を30回掛け算してみなさい。それが1ヶ月経っても病気にならないバラの割合だ」

 庭師は計算機を取り出して、計算を始めました。

0.8×0.8=0.64

0.64×0.8=0.512

0.512×0.8=0.4096

        ・

        ・

 計算機を叩く庭師の顔がみるみると青ざめていきます。

 なんと、0.8を30回掛けてみるとその答えは、

0.001238・・・

 0.2%にも満たないではありませんか!

 これでは1カ月で全てのバラが病気になってしまうのも当然です。

「よいか、短い時間ある程度の効果があったとしても、長い時間が経てばそんな効果など無いに等しいのだ。これからは薬に頼らず、しっかりと働きなさい」

 その後、領主様の庭師が旅行に出かけることは、2度とありませんでしたとさ。


~ 教訓 ~

 勝つ確率がある程度あっても、勝ち続けることは出来ない。

 指数関数の怖さ(ギャンブル編)。

 マスクが感染症に対して実験では有効に見えて、社会において全く無効である理由。


 勝率50%の場合に、勝ち続けられる確率のグラフ。

 ビギナーズラックを長期的に期待するのは愚かである。