昔々、あるところに、庭師がおりました。
庭師は、領主様が大切にしている沢山のバラを病気から守るため、毎日毎日一本一本調べては、病気になった黒い葉っぱを取り除いておりました。
夏のある日、薬屋が庭師の家にやって来て言いました。
「あなたはずいぶんと働き者ですね。ですが、そんなに働いては、身が持ちませんよ。この薬を使ってはいかがでしょう。これを使えば、働かなくても1日あたり8割の病気を防げます。薬の効果は1ヶ月なので、旅行にだって行けますよ」
これは素晴らしいと思った庭師は、その薬を買いました。
試しに薬をバラに使ってみると、薬屋の言った通り丸1日経ってもほとんどのバラに病気の葉っぱは有りませんでした。
やれやれこれで休めると思った庭師は、こっそりと旅行に出かけてしまいました。
1カ月後、庭師が旅行から帰って来ると、領主様がカンカンに怒っていました。
なんとバラは全て病気になり、わずかに残った葉っぱも真っ黒になっているではありませんか。
「庭師よ、これはどういうことだ。説明しなさい」領主様は言いました。
庭師は薬屋に言われた通りの説明をしました。
「馬鹿な庭師よ」領主様は言いました。「1日あたり8割の病気を防いだところで、何の意味も無いのだ。試しに、0.8を30回掛け算してみなさい。それが1ヶ月経っても病気にならないバラの割合だ」
庭師は計算機を取り出して、計算を始めました。
0.8×0.8=0.64
0.64×0.8=0.512
0.512×0.8=0.4096
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計算機を叩く庭師の顔がみるみると青ざめていきます。
なんと、0.8を30回掛けてみるとその答えは、
0.001238・・・
0.2%にも満たないではありませんか!
これでは1カ月で全てのバラが病気になってしまうのも当然です。
「よいか、短い時間ある程度の効果があったとしても、長い時間が経てばそんな効果など無いに等しいのだ。これからは薬に頼らず、しっかりと働きなさい」
その後、領主様の庭師が旅行に出かけることは、2度とありませんでしたとさ。
~ 教訓 ~
勝つ確率がある程度あっても、勝ち続けることは出来ない。
指数関数の怖さ(ギャンブル編)。
マスクが感染症に対して実験では有効に見えて、社会において全く無効である理由。
勝率50%の場合に、勝ち続けられる確率のグラフ。
ビギナーズラックを長期的に期待するのは愚かである。
我ながらよく出来た話だと思うのですが、いかがでしょうか?
返信削除願わくば、イソップ物語のように二千年後にも言い伝えられますように。